サウンドシアター ドラマCD「ベルサイユのばら」Ⅰ・Ⅱ
「ベルばら」のキャラクター・ボイスを全て、男性声優さんが担当しているCD。
「ベルサイユのばら」の名場面に宝塚出身の方が声をあてたDVDコミックスを持っているが、それに比べると男性の声なのに、こちらの方がずっと自然に聞こえてしまう。
声のみの演技と、舞台や映画・TVの演技は表現方法が違うのだとあらためて気づかされる。
声のみのドラマという性格上、説明的セリフが加えられてはいるものの、ほぼ原作どおりのセリフなのが、原作ファンとしては嬉しい。全体的な雰囲気も悪くないと思う。
Ⅰは、オスカルの誕生~黒い騎士登場の辺りまで。Ⅱは黒い騎士の頃~1989年7月13日に国民側に立って闘うことを宣言するシーンまで。
脚本は、原作のあらすじに沿いつつも、各チャプターが一人(ないし二人)のキャラクターとオスカルとの名場面を再現した形になっており、ややぶつ切りな印象。また、時系列も行きつ戻りつしてしまっている。物語の流れとしては、Ⅰの方が比較的うまく構成されているように思う。
問題の声だが、女性キャラクターは正直言って、かなり苦しい。マリー・アントワネットはじめ、ロザリー、ディアンヌは聴いていてハラハラしてしまった。
女性らしいことはらしいのだが、すすり泣きや悲鳴になると、女性の声には聞こえず、一気に現実に引き戻されてしまう。
また、なよやかさは十二分に出ていたが、そのキャラクターが持つ芯の強さ、上品さ、威厳などの表現までは、残念ながらできていなかったように思う。全体的にナチュラルな演技。
男性陣は可もなく不可もなくといったところだろうか。
フェルゼンはもう少し低い声でもよかったように思うし(出番が少ないこともあるが、印象が薄い)、アンドレは、おりぼん時代にはぴったりだが、苦悩する部分が弱かった。田辺聖子さんが、愛蔵版の解説において「アンドレの魅力は献身と支配である」と表現されているそうだが、「献身」の部分はあっても「支配」の部分、暗い熱さが弱い。
アランはかなりイメージに近かった。ジェローデルはなぜかヅカの演技に近いように感じた。
その中で、異彩を放っていたのが、オスカル役の森川智之さん。もともと好きな声優さんであるので、多少贔屓目に見てしまうのかもしれないが、男装の麗人を男性が演じるという何重にも入れ子になったような役をうまく演じていて、違和感が少ない。
他の女性役の難点であった、悲鳴やすすり泣きも見事クリアしていて、素晴らしいと思う。
アンドレを愛しはじめていくと、アンドレの前ではどんどん色っぽさ、かわいさが増す演じっぷりも、さすがだと思う。
「アンドレのあの逞しい胸に……わたしは今まで平気で―」のようなセリフを男性がまじめに言っていると思うと、演技がどうというより、セリフ自体が恥ずかしいので、聴いている方が照れてしまい、たまらず噴き出してしまうシーンが多々あったが、全体としては素晴らしいできばえ(人間、理解を超えたものや恐怖を感じても笑うらしいです)。
ブラびりやジェローデルとの口づけでアンドレの唇を思いだすシーン、司令官室での着替え、オスカルからの告白、7月12日の夜などあり。
他人のラブシーンをのぞき見ている感覚と、男性同士であるという二重の禁忌を犯しているからか、妙にドキドキさせられる。
演じている方達はさすがプロ。恥ずかしがらずになりきっているのに役者魂を感じる。
オスカル役の森川さんは43歳。アントワネット役の鈴木さんは27歳。
演技の巧みさは、経験の差もあるかもしれないと思う。
CDに付いていた帯によると、このMen’sオンリー・シリーズは「ベルばら」Ⅰで第4作目だが、その前は「赤毛のアン」、「真夏の世の夢」、「ロミオとジュリエット」。
なぜ、その次に「ベルサイユのばら」が選ばれたのか不思議だが、前3作に比べると、「ベルばら」はかなりハードルが高いような気がする。そんな中では大健闘した作品。
BL(ボーイズ・ラブ)というジャンルが確立されて久しいが、その手のお話は苦手という方は聞かない方が無難かもしれない。
アニメも楽しめるし、宝塚もどんと来い!な方には、一聞の価値ありかと。